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上の写真は管理人の昔使っていたソーラーですが、磁気帯びで一度壊れました。
今日は腕時計の磁気帯びについて考えていきます。

〈内容〉
・"磁気帯び"とは:磁気帯びとは何か。時計に及ぼす影響は。
・磁気帯びの仕組み:磁化を考える。
・対策:対磁機能、基準。


【"磁気帯び"とは】
 磁気帯びとは簡単に言えば、時計が磁気を帯びる事です。
 時計の部品が磁気を帯びる、つまり歯車やゼンマイが磁石と化し、互いに力を及ぼし合って動作に影響します。機械式の仕組み〈➣リンク〉でも述べましたように、部品に余計な力が加わると、部品に働く力についての設計段階での想定を超え、正確な動作ができなくなります。
 ですから磁気帯びの影響を受けるのは歯車のあるアナログ時計だけで、デジタル時計は磁気帯びの影響を受けません。
 また、クオーツのアナログですと、モーター部分は磁気によって機能していますので、外部の磁場がモーターの機能の邪魔をする場合があります。
 機械式だと、ヒゲゼンマイなどが磁気帯びしてしまって大きな影響を受けます。

 磁気帯びによって働く力はもはや普通の誤差の範疇にはなく、相当大きな力で、そもそも時計が動かなくなってしまったりします。
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↑図の上の式のFはクーロン力、磁気力、下の式はローレンツ力を表します。(ローレンツ力は近似式)

 クーロン力[N]、これは電荷に働く力の事ですがrは電荷間の距離[m]、qは電荷[c]を表し、分母の距離の2乗から電荷の距離が小さいとクーロン力が大きくなる事などが分かります。ニュートン力学の重力[N]などはF=mgですからクーロン力が非常に大きな力だということが分かります。
 クーロン力は本来電気力ですが、磁気力についても同じ法則が成り立ちます。
 磁気力の場合、Fは磁気力[N]、rは磁極間の距離[m]、qは磁極の磁気の大きさ[Wb]です。(磁力についてのクーロンの法則)
 電気と磁気には関係があります。なお、電流と磁界によって働くローレンツ力[N]について上の近似式(vは荷電粒子の速度、Bは磁束密度[A/m]、✕は外積)からやはり大きな力だということが分かります。

 クーロン力やローレンツ力は電磁力と言いますが、電磁力は重力などの万有引力などとは比較にならないほどの大きな力です。磁石の力や電気の力を侮ってはいけません。ただし、身の回りの磁石や電流は我々や身の回りの物体と相対的に小さいのであまり影響を感じません。電磁力がその真価を発揮しているのは原子レベルのスケールです。
 しかし電磁力が我々のスケールであまり影響を及ばさないのはただ単に色んな方向に働く力が打ち消し合って釣り合っているからで、一度向きが揃ってしまうと我々のスケールでも強力な影響を発揮します。

 ※スケールによって考えるべき力は変わります。しかし、こうした考えはつい最近一般的になりました。アインシュタインの相対性理論はこの点に真価があります。

【磁気帯びの仕組み】
 物質には強磁性、常磁性、反磁性という性質があります。物質を構成する原子の電子配置によって磁気特性は変わってきますが、例えば鉄やニッケルは常温では強磁性、水やカーボン化合物の多くは反磁性です。多くの物質は常磁性です。
 面白いのはガドリニウムで、強磁性と常磁性の境目となる温度(キュリー点)が19℃で、冷やすと磁石にひっつきます(強磁性)が、温めると磁石にひっつかなくなります。(常磁性)また水に超強力磁石を入れると水が左右に割れます。(磁石に反発する反磁性)これは旧約聖書の出エジプト記からモーゼ現象と言います。下らないネーミングです。

 時計の磁気帯びは強磁性である部品(鉄製歯車やゼンマイ)が磁化する事です。
〈磁化とは〉
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普通の状態の方位磁石です。
方位磁石は磁界を調べるのに便利です。

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磁石を近付けると力が働き、針が動きます。
この磁石は携帯電話のスピーカーからとったものです。
強力です。

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鉄釘(強磁性体)を近付けると針は動きません。

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しかし、5年ほど磁石にひっついていた鉄釘を近付けると、方位磁石は動きます。
これが磁化(残留磁化)です。


普通の鉄釘でも、そのままでは他の鉄釘を吸い寄せませんが、磁石と接触させると他の鉄釘を吸い寄せます。これも(これこそ)磁化です。

 強磁性体は構成原子がそれぞれ磁石のように磁極を持ち、相互に影響し合ってある一方に磁極が向かう「磁区」をつくります。普通ならば磁区は物体内で各方向の磁極の向き(磁気モーメント)が釣り合うような大きさで分布し、結果として磁界を持ちません。(下図左端)
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 しかし、外部の磁界の影響を受けて(外部の磁界による力を及ぼされて)磁界と同じ向きに磁極を持つようになる原子があります。それによって磁界の向きの磁区が大きくなり(上図中央)物体内部の磁気モーメントが釣り合わず、結果として磁界を持つようになります。これを磁化と言います。

 外部の磁界を取り払っても磁区が戻らなくなり、磁界を持ち続ける事があります。(上図右端)これを残留磁化と言います。
 時計の磁気帯びとは部品の残留磁化の事です。

【対策】
 現代はパソコンのハードディスクドライブやスピーカーなど、あちこちに強力な磁場があります。腕時計の磁化対策は各メーカーがいろいろと工夫していますが、やはり完全に磁化を防ぐ様な方法は無いというのが現状です。
 歯車に真鍮を使ったり、ゼンマイの材質を工夫して磁化しにくいようにしているようです。
日本工業規格、JIS規格ですと、第一種対磁は4800A/m、第二種対磁だと16000A/mの磁界の大きさでも機能を維持するそうです。
海外メーカーで単位にガウスを使ったりしているところもあります。モデル名としてはミルガウスも有名ですね。ロレックスの中で唯一私の好みに合いそうなデザインです。

 なお、電波時計では表示時刻と受信した時刻の差を監視、修正していますので、歯車が磁化して運針に影響が出ても修正されてしまって磁気帯びの影響が表れない場合もあるでしょう。カシオのオシアナスは磁気に強いという声がありますが、ただ単に修正されているだけだと思います。

 最高の対策は時計を磁気に近づけない事です。しかし、普通に過ごす分にはあまり気にしなくていいでしょう。私の時計の場合、強力磁石を時計に接触させて遊んだらいけませんでしたが、腕にはめてパソコンを使う分には磁気帯びしません。気になるなら時計に方位磁石を近づけてチェックしましょう。
 ※方位磁石で磁気帯びする事はありません。弱すぎます。

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