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 はい。お久しぶりです。おそらく1年以上ぶりでしょうか。
しばらく時計から離れて無線、写真に行っておりました。私は流行りがあるので一度離れると戻るのが結構間が空いてからになってしまうのです。そういう方も多くおられると思います。
当然このページに書くネタも無く、コメントをいただいたという通知をメールで受け取った時に覗くぐらいで放置しておりました。
 そんな平和な時が流れていたのですが、ちょっとした問題が起きました。SARK007に異常な遅れ、ゼンマイ巻き切れが頻発するようになったのです。
元から日差-2s~-5sぐらいで、遅れ癖のある個体だったのですが、2018年10月ぐらい(もっと前だったかも)から急にゼンマイ巻き切れちょっと前ぐらい(残り稼働時間6時間~10時間くらい)になると2~3分遅れるようになりました。また、自動巻きで巻かれているはずなのにその効率が落ち、腕に装着して動きもあったのに時計が装着中に止まるという事例も起きたのです。

【原因を考えてみた】
 機械式時計をお持ちの方はこういった症状でピンと来るところがあると思います。SARK007が搭載している8R48Aは手巻き付き自動巻きのクロノグラフムーブです。買ってからそろそろ2年、一般にオーバーホール時期とされている頃でもあります。
 精度が落ちる原因はいろいろ考えられます。油切れ、磁気帯び、衝撃などによるヒゲの変形・・・
裏蓋スケルトンからムーブメントを見てみますと、テンプの動き、ヒゲの収縮運動には異常があるようには見えません。しかし、丸穴車が異様にすり減っているように見えました。

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↑全体的に、特に赤で囲ったところなどに丸穴車の摩耗がみられる

 マジックレバーの爪が噛みこんで、切替車の回転に合わせて引っかき、丸穴車を回転させて・・・ゼンマイを巻き上げている訳ですが、丸穴車の歯が摩耗してマジックレバーがうまくかみ合わなくなってしまい、巻き上げ効率が落ちているようです。こうなると、巻き切れ前に数分遅れるのも巻き切れで停止・再稼働を繰り返しているのではないかとも思えてきます。
 ということで、丸穴車が摩耗していることが不具合の原因であり、丸穴車を交換してやればまたまともに動いてくれるであろう、という結論に至りました。

【分解して交換】
 まともな人なら即刻セイコーに送って部品交換・修理を依頼するところですが、7Sや4Rのよくわからない部品がなぜかそこそこある私はこそこそ自分で部品交換することにいたしました。


個人で分解すると(裏蓋を開けると)保証が効かなくなります!
保証期間が切れて関係なくなっても、セイコーにオーバーホール出そうとして断られる可能性もあります。



 そうそう、忘れていましたが、あのフリーガーファイブMark.2もこっそりGMT仕様になっていました。4R37から例のGMTホゾ付き日送り車をもらってきて製作しました。


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↑ちゃっかりローターも4Rになっています。元は7Sなので手巻きがありません。

 ということで、8Rと同じく丸穴車軸を固定するブリッジがある、4Rで分解方法を試しておきます。(8Rが4Rベースなのですが)

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ネジを2つ外して

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持ち上げて外す。それだけです。外した時に何かが飛び出てきたりしたら困りますが、そういう事はないようです。これで安心して8Rの方も作業に取り掛かれるというものです。

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丸穴車を取り出しています。下に手巻き用の輪列がありますね。

次は、8Rをばらして、丸穴車を交換します。
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裏蓋にラップを掛けて、裏蓋外しで開けます。開けるときは反時計回りです。

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取れました。これでこのSARK007は暗黒の道に転落です。

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ブリッジを外しました。よく見ると、丸穴車が欠けていて、マジックレバーの爪がそこにピッタリ食い込んでいます。この状態では爪がロックされてしまい、ロクに巻き上げることができません。

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替えの丸穴車を取り付けます。マジックレバーが引っかかるので、このように片側(ローター軸側)を先に丸穴車に引っ掛け、次に反対側を引っ掛けます。

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切替車の穴にピンセットを差し込み、回転させます。これによって正常に組み立てることができているか試運転できます。正常ならマジックレバーの往復運動に伴い丸穴車が回転していることが分かるはずです。ある程度回していると香箱の板バネが跳ねるので、巻き上げられていることがよく分かります。

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↑取り外した丸穴車です。ガタガタになっていますね。


【丸穴車の歯が摩耗した原因】

 なぜこれほどまでに丸穴車が摩耗してしまったか。その理由は単純です。手巻き機能の使いすぎでしょう。
 4Rの分解写真で示した通り、手巻きの回転は丸穴車に伝わります。丸穴車(機械オモテ側の歯)を経由して角穴車に回転が伝わっていく仕組みです。それ自体は至って合理的な考えで、マジックレバーは板バネとして丸穴車を挟んで止めていますが、バネなので丸穴車にある程度以上のトルクが掛かれば回転を妨げることはなくなります。手巻きのトルクを丸穴車を通さず直接角穴車に伝えた場合も結局つられて丸穴車は回転することになるので、同じことです。

図1
↑自動巻き時のマジックレバーの動き


 しかし、マジックレバーと丸穴車は本来連動して動作するものであり、マジックレバーの丸穴車を順方向に引っ掻いて回転させる爪、逆方向から押して回す爪(機械ウラ側から見てローター軸側)はそれぞれ絶妙に丸穴車に対する負荷を緩めて動作しています。回転にかかわっている爪と反対側の爪はサメの歯状の丸穴車の歯の緩い斜面を滑るのであまり負荷になりません。また、「く」の字型になっている板バネのマジックレバーが往復運動することにより、丸穴車を両側から挟み込む力を緩めると同時に負荷になる側の爪を反対側に動かしています。これによって丸穴車がマジックレバーの負荷に打ち勝つべく回転するのではなく、マジックレバーの動きそのもので負荷に対抗している、つまり基本的には丸穴車の回転に作用するのとは反対側の爪が丸穴車の歯を滑っていく動作は丸穴車のトルクではなくマジックレバーの動きによる力により賄われています。
 それが、手巻きで丸穴車を回転させた場合はマジックレバーの両側の爪が丸穴車にとって負荷となります。この場合丸穴車のみが動くため、丸穴車の回転トルクによってマジックレバーの爪は丸穴車の歯を滑ります。負荷が100%丸穴車の歯にかかるわけです。部品を見れば分かりますが、丸穴車の微細な歯とマジックレバーの爪、どちらがより丈夫でしょうか。この丸穴車の歯をマジックレバーの爪が滑るという動作は根本的にマジックレバー側の力で賄われるべく設計されているということです。

 つまり、マジックレバー式自動巻き機構において、手巻き機能を作動させることは丸穴車の歯をひどく摩耗させるということです。
 
 7Sを長期間連続して使用していても、丸穴車の歯が摩耗していくようなことは見られませんでした。それが4R系列で手巻きをちょくちょく使用していたら(1か月に1回~3回くらいかな)これです。また、今回摘出した丸穴車の歯をよく見ると、マジックレバーの爪が当たる歯の機械ウラ側部分が摩耗しています。つまり、マジックレバーの爪によって丸穴車の歯が摩耗しているということです。この辺の状況証拠から、マジックレバー式自動巻き機構で手巻き機能を使うと丸穴車の歯がひどく摩耗するという事が考えられます。

 自動巻き時計で、手巻き機能はとても便利なものです。 週末に使用していない間に止まってしまって、月曜の朝に再び動かす際にとても重宝します。しかし、それを常用していると、または十分な巻き上げを手巻きでしようとすると、丸穴車を摩耗させていくことになってしまうということです。
 よく言われていることですし、説明書などでもメーカー側からアナウンスされていますが、自動巻きムーブメントで手巻き機能を利用するのは最低限にする方がより長持ちする、ということでしょう。


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